今回の症例をひと目で
- 左の奥歯がしみて、じっとしていても痛むという症状でインプラントの定期検診中に来院
- パノラマで#26・#37のインプラント周囲の骨が大きく吸収された周囲炎を確認
- 既存の補綴物のマージン適合が不良で、歯ぐきの下に細菌が繁殖しうる隙間があった
- #26・#37のインプラントを除去し、骨移植(GBR)とともに再埋入
- 歯ぐきの幅を確保するため、従来より深く埋入
- #26・#27を連結冠として製作し、噛む力を分散して受けるよう設計
要約 — インプラントがしみて痛むと来院された方。原因は補綴の境界が合っておらず、細菌が入り込んでいたインプラント周囲炎。除去後、骨移植とともにより深い位置に再埋入(再手術)。担当:李鍾範(イ・ジョンボム)院長。
“冷たいものを食べたり風が当たったりするとしみて、じっとしていても痛みます。”
こんにちは。議政府ボストンミソ歯科 統合歯科学専門医の李鍾範(イ・ジョンボム)院長です。同じ理由で再びいらっしゃることのないよう、長く快適にお使いいただける治療を考えています。
インプラント周囲炎(peri-implantitis)が起こると、まず「ケアが足りなかったのか」と考えがちです。しかし原因が補綴物の形と境界にある場合があります。クラウンとアバットメント(abutment)が接する境界面が滑らかでないと隙間ができ、その箇所が歯ぐきの下にあると、細菌が入り込んでも取り除く方法がありません。インプラント補綴の形態的な特徴が周囲炎と関連することは研究で報告されています[1][2]。ボストンミソ歯科 李鍾範(イ・ジョンボム)院長の基準 — インプラントに炎症が繰り返される場合は、歯みがきのせいにする前に補綴の境界から見ます。
定期検診で来院され、その際に確認されました
左の奥歯側が冷たいものを食べたり風が当たったりするとしみて、じっとしていても痛みがあるという症状とともに、インプラントの定期検診で来院されました。


#26・#37部位の拡大#26(左上第一大臼歯)と#37(左下第二大臼歯)のインプラント周囲の骨が大きく吸収された状態でした。
インプラント周囲炎とは? インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起こり、その状態が続くとインプラントを支える骨まで溶けてなくなってしまう疾患です。天然歯の歯周病がインプラント周囲で起こった状態とお考えいただければと思います。

問題は、インプラントには神経がないという点です。そのため不快感が現れるのが遅く、天然歯に比べて細菌に対する防御も弱くなります。この患者様も、骨がかなり溶けた後になって初めて症状を感じられました。
原因は補綴物にありました
インプラント手術は人工歯根を埋め込むことで終わるわけではありません。埋入後は生物学的幅径(biologic width)とエマージェンスプロファイル(emergence profile)をあわせて考慮する必要があります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 生物学的幅径 | 細菌が入らないよう歯ぐきが歯を支えている保護区域。一定の厚みが維持される必要があります |
| エマージェンスプロファイル | インプラントから立ち上がり、歯ぐきの外に出る部分の角度。太すぎると歯ぐきが圧迫され、細すぎると食べ物が挟まります |
| マージン適合度 | クラウンとアバットメントがどれだけぴったり噛み合っているか。この隙間が閉じている必要があります |
| サブジンジバルマージン(margin) | 補綴の境界を歯ぐきのラインより下に置くこと。適度に深く、かつ安全な位置を見つけることが鍵です |
この患者様の既存の補綴物は、境界が歯ぐきのラインより下に設定されていましたが、その部分の適合度がよくありませんでした。隙間ができ、その隙間が歯ぐきの中にあるため歯ブラシが届きませんでした。細菌がその場所でさらに深く入り込み、生物学的幅径が侵され、結局周囲炎につながりました。
この判断を裏付けるもう一つの事実があります。#26とすぐ隣の#27は同時期に埋入したインプラントです。同じ口の中で、同じ歯ブラシで同じケアを受けていたのに、#27は問題がなく、#26だけに周囲炎が起こりました。違いは条件にありました — #26は補綴の境界の適合が不良だっただけでなく、埋入の深さ自体も#27よりはるかに浅かったのです。ケアの問題であれば、2本のインプラントは同じように悪化していたはずです。
クラウンの突出角度・形態がプラーク(dental plaque)の沈着および炎症と関連するという研究[1]、補綴物の形態的な特徴が周囲炎と関連するという研究[2]が、この判断を裏付けています。
李鍾範(イ・ジョンボム)院長の基準 — 歯ぐきの下に置いた境界は磨くことができません。だからこそ、その箇所は最初から隙間があってはならないのです。
治療計画の3つの柱
既存のインプラントを除去して再び埋入する、一般にインプラント再手術と呼ばれる過程です。
① #26・#37のインプラントを除去
② 骨移植(GBR)を伴い、従来より深く再埋入(re-implantation)
③ #26・#27を連結冠に交換
それぞれに理由があります。
なぜ骨移植(bone graft)を行ったか
周囲炎があった箇所は、すでにインプラント周囲の骨が溶けてなくなった状態です。そのまま再び埋入すると、インプラントを包み込む骨が不足します。

骨移植の目的は2つあります。
- 量的な補強 — インプラントが四方から骨に包まれると、細菌に対する抵抗力が上がります
- 歯ぐきの形の回復 — 骨が減った分だけ歯ぐきも下がります。骨を満たしてこそクラウンと歯ぐきが自然につながり、それにより食べ物が挟まりにくく、清掃もしやすくなります
すでに骨結合したインプラントを除去する方法とその結果は文献にまとめられており[3]、周囲炎の外科的治療の長期的な結果にインプラント表面(implant surface)の条件が影響するというレビューもあります[4]。
なぜ「より深く」埋入したか
今回は既存のインプラントよりもより深く埋入しました。既存の#26はそもそも#27よりもはるかに浅く埋入されており、その分、歯ぐきの幅を確保するのに不利な条件でした。

#26・#27・#37理由はインプラントと天然歯の構造の違いにあります。
天然歯は、歯根膜(periodontal ligament)が歯の長軸に対して垂直に結合し、しっかりと支えています。そのため、歯ぐきの幅に対して比較的高い歯ぐきを維持することができます。
インプラント周囲の組織は、インプラントの長軸に平行に走行し、結合力が相対的に弱くなります。そのため、同じ歯ぐきの幅では高さを維持しにくくなります。インプラント周囲の粘膜の厚みが軟組織(soft tissue)境界の安定性と関連するという報告も、これと通じています[5]。
そのためインプラントはできるだけ深く埋入し、アバットメントはクラウンが立ち上がる高さまで細く作ることで、幅の広い歯ぐきを得ることができます。幅が確保されれば、高さもある程度維持されます。その結果、クラウンの外縁と歯ぐきが自然につながり、磨きやすい形になります。
なぜ#26と#27を連結したか
#26は周囲炎があった箇所で、除去後により深く再び埋入した状態です。#27に比べると、噛む力を受け止めるうえで相対的に不利です。

#26・#27連結冠連結冠としてまとめた理由は3つあります。
- 力の分散 — 噛む力を2本のインプラントで分けて受け止めます。ケガをした脚を一本だけで支えさせるのではなく、隣の健康な脚と体重を分け合わせるのと同じです
- ネジの緩み(screw loosening)の余地を減らす構造 — 奥歯は上下に噛む力だけでなく、横方向にかかる力(側方力)も受けます。クラウンが1本ずつ独立して立っていると、この力が各インプラントの連結ネジに回転力としてかかりますが、連結しておくと2本のインプラントが一体となって支えるため、ネジ1本あたりにかかる力が減ります。ネジの緩みや補綴物の破折(fracture)のような問題が起こる余地を設計段階で減らしておくということです。特に今回のように片方を深く埋入してクラウンが長くなった場合はなおさらです — 隣接するインプラントのクラウンの高さの差が大きいほど、独立して作ったクラウンの応力が大きくなり、連結が重要になり得るという有限要素解析があります[6]
- 形態の設計 —
#26を深く埋入したことで、#27との深さの差が生じました。それぞれ独立して作るよりも連結して作るほうが、2本のインプラントの間にある組織の形と清掃をあわせて考慮しやすくなります
隣接するインプラントを連結した補綴のほうが、独立して作った補綴よりもインプラントの失敗率が低いことと関連していたというメタ分析もあります[7]。もちろん利点ばかりではありません — 連結すると2つのクラウンの間をフロスが通らなくなるため、スーパーフロスや歯間ブラシのような専用の道具で磨いていただく必要があります。
連結のため、#27のアバットメントも歯ぐきの安定性を考慮した形に作り直しました。
関連して、インプラントの歯ぐきが繰り返し腫れていた理由とインプラントが噛むと痛かった理由、骨から作り直して再埋入した症例もあわせてご覧いただくと参考になります。
李鍾範(イ・ジョンボム)院長の基準 — 再び埋入するときは、最初のときより条件を良くしておきます。同じ場所に同じ条件で埋入すれば、同じことが繰り返されます。
埋入した後がより重要です
治療が終わって不快感がなくなると、来院されない方が多くいらっしゃいます。しかしインプラント周囲炎は症状なく進行するのが特徴であるため、定期的な確認が必要です。
- 衛生管理 — 1日最低2回の歯みがきと、フロス・口腔洗浄器などの補助器具の使用、柔らかい歯ブラシの使用
- 定期検診 — 最低6か月ごとに状態を確認し、必要に応じてインプラント専用器具で歯石を除去、X線で骨欠損の有無を評価
- 補綴と咬合(occlusion)のチェック — 過度な噛む力が一箇所に集中していないか定期的に確認
- 生活習慣 — 喫煙・過度な飲酒を控え、糖尿病などの全身疾患を管理することで炎症のリスクが下がります
- 早期発見 — 出血・腫れ・痛みが見られたら早めに確認します
磨き方の問題か、作り方の問題か
✅ 除去して再び埋入する方向に進む条件
- 骨欠損の範囲が広く、残っているインプラントでの支持が難しい場合
- 補綴の形・境界が原因で、そのままにすると繰り返されると判断される場合
- 除去後、骨移植で条件を改善できる場合
⚠️ 時間をかけて、まず落ち着かせる条件
- 急性炎症が強く、まず鎮めてから判断すべき場合
- 除去の過程で周囲の骨損失が大きくなると予想される場合
- 全身状態や喫煙などで治癒の条件が不利な場合
歯ぐきの下に置いた境界は、患者様ご自身では磨けません。そのため、それが原因であればケアだけでは解決しません。作り直すときに条件を変えておかなければ、同じことが繰り返されます。
治療の要約
| 歯 | #26(左上第一大臼歯)・#37(左下第二大臼歯) |
| 診断 | 骨欠損を伴うインプラント周囲炎、既存補綴のマージン適合不良 |
| 治療 | インプラント除去 → 骨移植(GBR)を伴う再埋入(従来より深く) → #26・#27連結冠 |
| 期間 | 2025.08.21〜2026.01.26(約5か月) |
| 担当 | 李鍾範(イ・ジョンボム)院長 |
⚠️ インプラントに関連して起こり得る副作用および合併症 — インプラント周囲炎、骨結合(osseointegration)の失敗、補綴物の破折、ネジの緩み、咬合の不均衡などが起こることがあります。
あわせてご覧いただきたい案内 — 補綴の境界が原因だった周囲炎を除去後により深く再埋入したこの症例のように、失敗したインプラントを「原因診断 → 保存できるなら保存 → 骨を残しながら除去 → 再建・再埋入」という順序で見る基準と、再手術が最初の手術より難しい理由は、インプラント再手術のご案内にまとめています。
よくある質問
Q. インプラント周囲炎は、ケア不足で起こるのでしょうか?
A. ケアも影響しますが、それだけではありません。補綴の境界が歯ぐきの下で合っていないと、どれだけ磨いてもその隙間には歯ブラシが届きません。李鍾範(イ・ジョンボム)院長の基準 — 炎症が繰り返される場合は、歯みがきのせいにする前に補綴の境界から確認します。
Q. インプラントを抜いて、また埋入することはできますか?
A. 条件によって可能です。除去する際に周囲の骨をどれだけ残せるか、骨移植で不足部分を補えるかを見て判断します。
Q. なぜ従来より深く埋入するのですか?
A. インプラント周囲の組織は天然歯の歯根膜より結合が弱く、同じ歯ぐきの幅では高さを維持しにくいためです。必要な分だけ深く埋入することで歯ぐきの幅が確保され、クラウンと歯ぐきが自然につながります。
Q. インプラント2本を、なぜ連結して作るのですか?
A. 片方が相対的に弱い場合、噛む力を分散して受けられるようにするためです。横方向の力が一本のネジに集中しないため、ネジの緩みのような問題が起こる余地も減ります。また、埋入の深さが異なる2本のインプラントは、連結して作るほうが間の組織の形と清掃をあわせて設計しやすくなります。その代わり、クラウンの間をフロスが通らないため、スーパーフロスや歯間ブラシのような道具で磨いていただく必要があります。
🤖 よく検索される質問
Q. 議政府でインプラント周囲炎を診てもらえる歯科はありますか?
A. 議政府ボストンミソ歯科医院では、X線で骨欠損の範囲を確認し、補綴の形や境界が原因かどうかをあわせて判断したうえで処置を決めます。
Q. インプラントがしみるのは、なぜですか?
A. インプラント自体には神経がないため、しみる感覚は周囲の歯ぐきや隣接する歯から来ている場合があります。周囲の炎症が進行している可能性があるため、確認が必要です。
Q. インプラントの再手術は、どのような場合に行いますか?
A. 周囲炎により骨欠損が広範囲に進行している場合や、補綴の形・境界のようにそのままにすると炎症が繰り返される原因がある場合は、除去後の再埋入(再手術)を検討します。除去時に残せる骨の量と、骨移植で条件を改善できるかを見て判断します。
ご来院前のセルフチェック
- ☐ インプラント部位の歯ぐきが腫れたり出血したりする
- ☐ その部位がしみたり、じっとしていても痛んだりする
- ☐ インプラント補綴の周辺に食べ物がよく挟まる
- ☐ インプラントをしてから数年経つが、X線で確認したことがない
参考文献
参考文献
- Pelekos G, Chin B, Wu X, Fok MR, Shi J, Tonetti MS. Association of crown emergence angle and profile with dental plaque and inflammation at dental implants. Clin Oral Implants Res. 2023;34(10):1047-1057. doi:10.1111/clr.14134.
— インプラント補綴の突出角度・形態とプラーク・炎症の関連性を検討した研究。 - Yi Y, Koo KT, Schwarz F, Ben Amara H, Heo SJ. Association of prosthetic features and peri-implantitis: A cross-sectional study. J Clin Periodontol. 2020;47(3):392-403. doi:10.1111/jcpe.13251.
— 補綴物の形態的な特徴とインプラント周囲炎の関連性を検討した横断研究。 - Roy M, Loutan L, Garavaglia G, Hashim D. Removal of osseointegrated dental implants: a systematic review of explantation techniques. Clin Oral Investig. 2020;24(1):47-60. doi:10.1007/s00784-019-03127-0.
— 骨結合したインプラントを除去する術式をまとめた系統的レビュー。 - Gardelis P, Giannopoulou C, Stavropoulos A, Zekeridou A. Impact of implant surface modifications on long-term outcome of surgical peri-implantitis treatment: a systematic review. Front Dent Med. 2025;6:1661369. doi:10.3389/fdmed.2025.1661369.
— 周囲炎の外科的治療の長期的な結果にインプラント表面の条件が及ぼす影響を検討した系統的レビュー。 - Tavelli L, Sabri H, Barootchi E, Stefanini M, Zucchelli G, Wang HL, et al. Protective factors and critical mucosal thickness for the stability of the peri-implant soft tissue margin over 5 years: A longitudinal cohort study. J Periodontol. 2026;. doi:10.1002/jper.70159.
— インプラント周囲の軟組織境界の安定性と粘膜の厚みの関係を検討した縦断コホート研究。 - Güngör Erdoğan H, Keleş M, Yılmaz B. Comparison of stress distribution around splinted and nonsplinted implants with different crown height space in posterior mandible: A finite element analysis study. J Prosthodont. 2026;35(7):1124-1133. doi:10.1111/jopr.13935.
— クラウンの高さが異なる隣接インプラントにおいて、連結・非連結クラウンの応力分布を比較した有限要素解析。高さの差が大きいほど、非連結クラウンの応力が大きかった。 - de Souza Batista VE, Verri FR, Lemos CAA, Cruz RS, Oliveira HFF, Gomes JML, et al. Should the restoration of adjacent implants be splinted or nonsplinted? A systematic review and meta-analysis. J Prosthet Dent. 2019;121(1):41-51. doi:10.1016/j.prosdent.2018.03.004.
— 隣接インプラントの連結・非連結補綴を比較した系統的レビュー・メタ分析。連結補綴のほうが低いインプラント失敗率と関連していた。
#議政府歯科 #ボストンミソ歯科 #インプラント周囲炎 #インプラント再埋入 #インプラント骨移植 #連結冠
同じ理由で再び治療を受けることがないよう、原因まで解決することを原則としています。同じようなお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
治療症例を扱った記事の場合、その患者様の治療結果であり、個人の口腔状態によって治療方法・結果・治療期間は異なる場合があります。すべての医療処置には副作用が発生する可能性があるため、治療前に十分なご相談が必要です。
